健保組合の保健活動盛ん　体操、減塩 摘もう病気の芽　医療費削減、みんなにプラス

正しい体操の指導、食事の塩分を減らすためのセミナーや禁煙プログラムの実施など、保健活動に力を入れる健康保険組合が増えている。加入者が健康になれば、病院に行くことが減って医療費の削減につながり、健保の経営にもプラスになるからだ。専門家は「加入者の特性を分析し、効果の高い取り組みを」と語る。　（佐橋大）
　「手のひらの向きまで意識して、体を動かしてくださいね」
　自動車部品などの金属加工メーカー「ニッシンテクニス」（愛知県蟹江町）で七月、「正しいラジオ体操」を学ぶセミナーが開かれた。同社を含め、機械器具の製造に携わる五百八十社が加盟する総合健保「愛鉄連健康保険組合（愛鉄連健保）」（名古屋市）が協力。おなじみの体操だが、健康運動指導士の野村恵里さんが、丁寧にアドバイスしながら、メリハリをつけた正しい体の動きを伝えた。
　従業員約七十人が参加し、うっすら汗をかく人も。「始業時のラジオ体操をしっかりすることで、一人一人により健康になってもらい、転倒などの労災の可能性も減らしたい」と総務部の森安可奈課長。同社はほかにも、健保と連携し、食事の塩分摂取量の削減を狙った講座など年に二回、従業員向けの健康セミナーを開いている。
　愛鉄連健保には、健康運動指導士の野村さんのほか、保健師三人と管理栄養士が専属でいて、こうした健康づくりの活動に協力している。
　了解を得た企業では、健康診断で悪い数値が出ているのに受診しない従業員への働きかけも。加入企業の従業員の特性や健診データなどを分析して病気の芽を摘み、重症化を防ぎ、医療費の削減につなげている。同健保の常務理事で健康経営エキスパートアドバイザーでもある白木雅康さんは「医療費が減れば、保険料も減らせて、企業、従業員、健康保険組合すべてにプラス」と強調する。
　実際、愛鉄連健保の被保険者の平均年齢は、健保組合全体の平均とほぼ同じだが、二〇二一年度の一人当たりの医療費は全国平均より約１１％も低い。「地道な保健活動が要因の一つ」という。
　医療費を抑えることで、各健保で定める保険料率も、多くの中小企業が加入する全国健康保険協会（協会けんぽ）の全国平均より約０・３％低い。こういった実績から、最近の五年余りの間に、同健保には四十七社、約七千人が新たに加わった。財政基盤が強化され、国の保有基準を大きく上回る積立金を維持。工夫を凝らした積極的な保健事業が展開できているという。
　高齢化に伴い、増える一方の医療費を抑えたい国も、十年ほど前から病気の予防や健康づくりを狙った保健事業を推奨。厚生労働省のホームページでは、オンライン禁煙プログラムの参加を呼びかけて提供している企業の例や、コロナ禍による働き方の変化で健康の不安を抱える従業員のために、二十四時間対応の電話健康相談のサービスを始めた例も紹介している。
　健保の保健活動に詳しい帝京大大学院教授の福田吉治さんは「医療費の負担が重くなっていく時代に、健保が加入者の健康管理やニーズに合った保健事業を展開していくことは非常に重要」と指摘する。
　ただ、漫然と実施するだけでは効果は出ないとも。保健事業には「被保険者の健康保持」「医療費の適正化」「特定健診の受診率の向上」の三つの役割があるといい、「取り組みが形骸化しないように、従業員の特性などを分析し、どの目的のためにどんな活動をすればよいかを明確にして実施してほしい」と訴えた。

東京新聞　2023年8月15日 07時13分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/270203