疲れました」コロナ禍で店をたたんだ料理人　都庁前「無料食品配布会」利用者数高止まり

「疲れました」コロナ禍で店をたたんだ料理人がつぶやいた　都庁前「無料食品配布会」利用者数が高止まり

＜東京共助＞

　新型コロナウイルス禍の行動制限が5月に緩和されて3カ月。経済状況や雇用環境の改善ムードが高まる中、東京都庁前（新宿区）で毎週土曜に開かれる無料食品配布会の利用者数は高止まりしている。物価高もあり、コロナ禍であらわになった生活苦を抱える人たちは少なくない。支援団体は「低所得に陥らないための予防的な支援が必要だ」と訴える。（中村真暁）

◆コロナ禍初期の5倍の水準…生活不安を反映か
　認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」（新宿区）によると、7月以降の利用者は毎回600人前後。5月に新型コロナの感染症法の分類が5類に引き下げられ、経済活動が活発になっているが、配布会場の利用者はコロナ禍初期の2020年4月の1回平均120人程度に比べ、5倍の水準で推移する。22年に500〜600人だったころの人数も上回る。
　今年6月の完全失業率は2.5％で、コロナ禍にピークだった20年10月時点と比べると0.6ポイント下がった。入国制限緩和によるインバウンド（訪日客）需要がけん引するなどし、飲食業やサービス業など各業種の求人も増えている。
　それでも支援を必要とする人が絶えない実情を、大西連理事長は「最近は年金や仕事はあっても低収入で、長期的な生活不安から節約のために訪れている人が多い印象だ」と指摘。非正規雇用の広がりや賃金が上がりにくい状況は依然変わっておらず、「コロナ禍に仕事や住まいを失うような経験をした人たちの『もうあんな思いはしたくない』という不安が表れているように感じられる」と話す。
　東京都庁前の無料の食品配布会　生活困窮者支援の認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」（新宿区）と「新宿ごはんプラス」が都庁前で開いている無料の食品配布会。以前はごはんプラスが月2回開いていたが、新型コロナウイルス感染が拡大した2020年4月以降にもやいが合流し、毎週土曜の開催となった。企業や団体から無償で提供されたり、購入したりした野菜や果物、パン、菓子、缶詰などを配布。生活や法律の相談にも応じている。

◆「仕方なかった。あの時はみんな、そうだったんだ」
　8月12日、都庁前であった無料食品配布会。うだるような蒸し暑さの中、575人が列をつくっていた。足を引きずって歩く高齢男性、大きなかばんを持った中年女性、若い男性らさまざまな人がいた。
　列の一人に声をかけた。横浜市出身という男性（51）は元ホテルの料理人で、つい2年前までイタリア料理店のオーナーだった。
　男性は母子家庭で育ち、子どものころは仕事で忙しい母に代わって料理を作り、妹に食べさせるのが日課だった。「喜んで食べてくれた。それが料理人になろうと思ったきっかけでした」。18歳でホテルの料理人になり、2017年、40代半ばで念願の自分の店を渋谷区内に構えた。
　ところが20年にコロナ禍が襲い、経営が悪化。翌21年夏には店をたたんだ。以来、知人の飲食店を手伝うものの、手取りは月20万円弱。店を閉めたころに手元に残っていた200万円は、半分以下に減った。
　「もう、店をやるのはいいかな」。他の職種で就職先を探すつもりという。ただ年齢もあり「難しさも感じる」。安定した働き口を見つけるのは簡単ではない。将来が心配で、最近になって食品配布を知った。「トマトなどの生鮮品もあって、助かる。物価高で生活が厳しいけど、節約するにも食費を削るくらいしかないんです」と苦笑した。
　「仕方なかった。あの時はみんな、そうだったんだよな」。自分に言い聞かせるようにつぶやき、こう漏らした。「疲れました。幸せになりたい」
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　首都・東京で生きるのが精いっぱいの人たちがいる。彼らを支える共助の現場、行き届かぬ公助の問題点を探る「東京共助」は随時掲載します。

東京新聞　2023年8月18日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/270883